赤字会社も要注意。消費税還付申告は税務調査の対象になりやすい
国税当局は赤字会社に対しても税務調査を実施しており、特に消費税の還付申告は重点事案として掲げられているほどです。
本記事では税務調査が入る赤字会社の特徴と、消費税の還付申告が重点的に調査を受ける理由について解説します。
赤字会社に対して税務調査が実施されるケース
赤字会社に税務調査が実施される主なケースは、「赤字の偽装」と「消費税の不正還付」の2つです。
法人税や所得税は、利益に対して課される税金であるため、事業が赤字となった際に納税額は発生しません。
そのため売上の一部を除外したり、計上時期をずらしたりすることで売上を過少に申告する事業者や、経費の水増しにすることで赤字を装う事業者が一定数存在します。
また法人は繰戻還付制度の利用により、確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻し、法人税額の還付を請求することが可能です。
繰戻還付制度を悪用すれば、意図的に損失額を増やすことで黒字申告時に納めた税金の還付を受け取ることができるため、税務署は赤字申告に対しても税務調査を実施しています。
消費税の申告では、課税売上から課税仕入れの差額に対する消費税を納めることになります。
課税売上よりも課税仕入れの額の方が大きい場合、確定申告を行うことで払い過ぎていた消費税の還付を受けることが可能です。
ただ課税仕入れ金額を水増しするなどの方法により、還付金を不正に受け取る事案が発生しているため、消費税の還付申告は税務調査の重点事案となっています。
消費税還付申告に関する国税当局の対応
令和4年1月、国税庁は「消費税還付申告に関する国税当局の対応について」として、現状の消費税還付申告への対応についての方針を公表しました。
公表内容を要約すると、国税当局は不正還付を防止するために各種情報に照らして必要があると認められる場合、還付申告の原因を確認するために還付金の支払いを一旦保留し、行政指導として電話等による確認書類出の依頼や実地調査を行うこととしています。
還付申告の原因の確認は様々なケースが想定されているため個別対応が必要であり、課税仕入れや免税取引等の相手方と連絡が取れないことなど、取引の実態の確認が困難なケースも想定されます。
また消費税に関する確認作業には一定の時間を要するため、今後は消費税の還付申告を行ったとしても、還付を保留する期間が長期間に及ぶことが国税当局から示唆されました。
消費税還付に対する調査が重視される理由
法人に対する税務調査で、消費税の還付申告は要調査項目の一つとなっていますが、消費税還付申告に対する調査は、さらに厳しくなることが予想されます。
国税当局の目が厳しくなる理由としては、軽減税率の導入とインボイス制度の実施があります。
消費税の軽減税率は、令和元年10月1日から消費税が10%に引き上げられたのと同時に導入されました。
軽減税率は日本にはじめて導入されましたので、税率の適用誤りが多発することは予想され、税務署は積極的に税率誤りを指摘してきますし、消費税が8%と10%の2種類になったことで、税率の差額を利用した不正還付を行う事業者が発生することも考えられます。
法人調査は1回の調査で複数の事業年度を調べるため、軽減税率が導入してから一定期間経過したこれから、消費税の本格的な調査が行われる可能性が高いです。
インボイス制度(適格請求書方式)は、消費税の仕入税額控除を適用するための要件の一つであり、令和5年(2023年)10月から施行される制度です。
施行後に仕入税額控除を適用するためには従来の要件に加え、適格請求書の保存等も必要となりますので、仕入税額控除の適用要件は厳しくなります。
仕入税額控除が適用できなくなれば、消費税の納税額は増えると同時に、還付金額は減少します。
そのためインボイス制度の導入前後は、仕入税額控除の適用要件を満たしているか厳しくチェックされ、申告誤りがあれば税務調査を受けることになりますので、制度が開始する前に対策を講じなければなりません。
消費税不正還付の手口
消費税の不正還付の一例としては、架空の国内仕入れ(課税取引)および、架空の輸出売上げ(免税取引)を計上する方法があります。
国税当局が実際に摘発した事案には、法人が国内での仕入れを装うことで架空の課税仕入れを計上するとともに、国外への販売を装い架空免税売上を計上し、多額の消費税還付金を記載した消費税の確定申告書を提出したものがありました。
国際課税は消費税の不正還付と同様、税務調査の重点課題の一つですので、国際取引を行っている法人は、消費税の課税・免税の扱いに一層注意しなければなりません。
まとめ
赤字会社であっても税務調査が実施される可能性はありますし、消費税の申告については軽減税率やインボイス制度の影響から、調査件数が今後増加することも考えられます。
法律の改正前後は、計算ミスや申告誤りが発生しやすく、税務署はそのタイミングを狙って積極的に調査を実施します。
税務調査を回避するためには、適正に申告書を作成することが最も大切ですので、税理士など専門家に相談するなどして、税務調査対策を講じてください。
京都市の税務調査対応サポートをしていますのでお気軽にご相談ください。