赤字法人に対する調査件数と税務調査の対象になりやすい企業の特徴

法人税は利益に対して課される税金ですので、赤字の事業年度に法人税を支払うことにはなりません。

しかし赤字の事業年度でも税務調査の対象になることはありますので、本記事では赤字法人に対して税務調査が行われる理由と、調査対象となる法人の特徴について解説します。

法人税は毎年300万件以上申告されている

国税庁が公表している資料(※1)によると、令和3事務年度の法人税等の申告件数は306万5千件で、前事務年度301万件よりも申告件数は増加しています。

申告書を提出した法人のうち、黒字となった法人は109万3千件しかないため、約3分の2の法人は赤字(または損益ゼロ)の申告を行っています。

※1:令和3事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要(国税庁)

法人税の税務調査件数は年間10万件超

「令和3事務年度 法人税等の調査事績の概要」(※2)によると、令和3年事務年度は4万1千件の実地調査が行われています。

「実地調査」とは、税務署の調査担当者が自宅や会社の事務所に臨場して調査を行うことをいいます。

新型コロナウィルスが流行する前の平成30事務年度(※3)では、9万9千件実施されていましたので、法人の3%以上は実地調査を受けている計算です。

また電話や手紙、税務署に呼び出して申告誤りを指摘する「実地調査以外の調査」は、令和3事務年度において6万7千件実施されていますので、実地調査と合算すると令和3事務年度においても10万8千件以上の法人税調査が行われています。

※2:令和3事務年度 法人税等の調査事績の概要(国税庁)

※3:平成30事務年度 法人税等の調査事績の概要(国税庁)

実地調査の1割は赤字法人に対して実施されている

少し古い資料になりますが、平成20事務年度に行われた実地調査14万6千件のうち、全体の約11%(16,213件)は、赤字申告に対して実施されています。

法人税の赤字申告は黒字申告の2倍程度ありますので、黒字申告に比べると税務調査を受ける確率はかなり少ないです。

ただ注意しなければいけないのは、税務調査を受けた赤字法人のうち、8件に1件は赤字から黒字に転換している点です。

黒字になれば法人税を支払うことになりますし、税務調査で申告漏れが指摘されれば本税だけでなく、加算税・延滞税といったペナルティが課されます。

<赤字申告法人に対する実地調査(法人税)件数>

出典:赤字申告法人に対する実地調査の事績(国税庁)

税務調査の対象となりやすい赤字法人の特徴

提出した法人税の申告が赤字であれば、黒字申告よりも税務調査を受ける確率は低いですが、次に該当する法人は赤字申告をしていたとしても調査対象となりやすいです。

利益と繰越損失の額を相殺している

税務署は利益が発生した事業年度だけでなく、事実関係を確認するために赤字の事業年度も調べます。

赤字が発生した場合、損失金額を翌年以降に繰り越すことが認められており、青色申告の法人であれば最大10年間損失金額を繰り越せます。

利益が発生したとしても、同額以上の損失金額を繰り越していた場合、利益と相殺することで法人税の支払いをゼロにすることも可能です。

そのため税務署は、繰越金額が適切であるか確認するために税務調査を実施することがありますし、調査で損失金額の誤りを指摘されれば利益を相殺しきれず、納税額が発生してしまうこともあるのでご注意ください。

申請書類の作成・準備

税務署は利益が発生した事業年度だけでなく、事実関係を確認するために赤字の事業年度も調べます。

赤字が発生した場合、損失金額を翌年以降に繰り越すことが認められており、青色申告の法人であれば最大10年間損失金額を繰り越せます。

利益が発生したとしても、同額以上の損失金額を繰り越していた場合、利益と相殺することで法人税の支払いをゼロにすることも可能です。

そのため税務署は、繰越金額が適切であるか確認するために税務調査を実施することがありますし、調査で損失金額の誤りを指摘されれば利益を相殺しきれず、納税額が発生してしまうこともあるのでご注意ください。

大幅な経費の増加で赤字転換している

法人税は、経費を増やして利益を圧縮することで、納税額を抑える方法があります。

売上が伸びれば利益が増える可能性が高いため、同事務年度中に設備投資などの高額な支出を利用して利益を抑えるのも節税手法の一つです。

ただ一方で、売上除外や経費水増しなどを行うことで利益が発生していないことを装い、赤字申告を行う法人も存在します。

実際に支出した費用を経費計上するのは問題ありませんが、存在しない支出や事業に関係のない支出を経費計上するのは違法です。

脱税行為は重加算税の対象になりますし、悪質性が高い場合には逮捕される危険もあるので、利益の圧縮は合法的な手段を用いて行ってください。

消費税の還付が発生している

法人が税務署に対して申告する税金は、法人税だけではありません。

一定以上の売上のある法人は消費税の課税事業者となり、消費税の課税売上げから課税仕入れを差し引いた金額に対応する消費税を納めることになります。

赤字の法人は、課税売上げよりも課税仕入れの金額が多いため、消費税の申告をすることで還付を受けることができます。

しかし法人税の脱税と同様、課税仕入れを水増しすることで消費税の不正還付を受ける企業は一定数存在するため、税務署は還付申告の法人に対しても税務調査を実施しています。

近年では、海外取引の多い事業者の不正還付が散見されることから、国際的に事業を展開している企業は調査対象になりやすいです。

赤字法人が税務調査を回避するためのポイント

実地調査は、赤字を装っている会社や消費税の不正還付を受けている会社など、脱税や申告誤りが見込まれる申告書から優先的に行われます。

税務署の立場からすると、毎年赤字が発生している法人を調査し、申告誤りを指摘しても税収は増えませんので、黒字申告に比べ赤字申告を調査するメリットは少ないです。

反対に、、赤字から黒字に転換する可能性がある場合や、繰り越した赤字を黒字と相殺しているケースにおいては、申告誤りを指摘することで税収が増える可能性があります。

そのため赤字法人であっても申告書は適正に作成し、帳簿書類等の提示を求められた際に対応できるよう、書類等を破棄せず保存しておくことが大切です。

まとめ

税務調査は基本的に利益を出している法人に対して実施されますが、利益と繰越損失を相殺できる関係上、赤字であっても調査対象となる可能性はあります。

法人税調査は数年分の申告書をまとめて調べますので、損益に関係なく適正申告を心掛けてください。

京都市の税務調査対応サポートをしていますのでお気軽にご相談ください。